フリーランスの泣き寝入りは発注企業の思う壺



年明け最初の投稿になります。今年もよろしくお願いいたします。
本日は、2022 年1月27 日配信のニュース記事をひとつ紹介したいと思います。
上の画像はご覧のとおりNHKですね。いろいろ大変な昨今ですが、フリーランスの皆さんも非常に厳しい状況にある方が少なくはないでしょう。まずはササっと「泣き寝入り」の文言を安い辞書から削除することにいたしましょう。校正用語でいえば「入朱」ですね。赤ペン1本を取り出して「トル」と書き込むだけでOKなんです(笑)


赤色の囲みを見てみましょう。厚生労働省等がフリーランスを対象とする相談窓口を開設しているのですね。名称は「フリーランス・トラブル 110 番」― なるほど「110 番通報」ということですね。ひゃくとーばん・つーほー、ですね、分かりました、覚えておきましょう。記事によれば、2021 年 11 月末までの1年間で寄せられた相談件数はおよそ 4000 とのこと。政府も対策強化の検討に入っているそうですから、おそらく本件は推進されるものとみてよいでしょう。

緑色の最初の囲みを見てみますと、企業などから個人で仕事の発注を受け、報酬を得ている人は、2019 年時点で約 170 万人に上るとのこと。「ああ、私もそこに入っていますよ」と一言。同時に、労働人口全体から見れば依然として少数派、マイノリティなんですね。このマイノリティというものですが、そこに目を向ける、威勢の良い言葉を使うなら、そこに突っ込んでいく政府であるか、いや「イキ」「ママ」(校正用語)とする政府であるかという点は、21 世紀現代において一国の成熟度を測るモノサシのひとつといえるのではないかと思います。

次に緑色の2番目の囲みですが、ここはすべて引用しましょう。
フリーランスは雇用契約を結んで働く労働者のように定期昇給やベースアップなどで収入が増えるということはなく、法律で定める最低賃金も適用されません。

そのとおりですね。知っていますよ、当事者の私はもちろんのこと。しかしこれは私を含むフリーランスの人々のための文章ではありませんね。派遣社員、契約社員、パート・アルバイトで働く人材以上に「雇用の調整弁」としてフリーランスをいいように扱い、倫理や人道、正義といったものからは遠く離れた当該企業の全関係者が読むためにある文章ではないでしょうか。


2022 年1月14日付「ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)執行委員会」の「フリーランスの春闘宣言」という文書の書き出しに目を通しました。以下に引用しましょう。
1970年代、出版界、とりわけ雑誌の制作現場において、先割レイアウトと呼ばれる編集方式が確立されたことから、ライター、エディター、デザイナー、フォトグラファー、イラストレーター、校正者など、大量のフリーランスが生み出されました。雑誌が隆盛を極めた時代に、クリエイティブの礎を築いたのは、産業の要請によって輩出されたこれらフリーランスであったと言っても過言ではありません。言うなれば、フリーランスはメディア産業の申し子でもあります。
そのとおりですね。さらにもう1か所引用しましょう。画像の末尾2行です。
私たちフリーランスにも、低廉な報酬、不安定な就労、曖昧な契約、未確立の権利という状況の中にあって、ハラスメント防止という言葉もなかった時代に泣き寝入りせずに声を上げた先達がありました。
そうですね。実はこの文章を読んだとき、ある出来事を思い出しました。某出版社の校閲手配者、彼は生え抜きの社員でしたが、ある1冊の本の報酬をめぐって私が問題化したんですね。簡単に申しますと「安すぎじゃねえかコノ野郎」という喧嘩を売ったわけなんです。結果、彼は料金アップを提示しましたが、一連のやり取りのなかで私が受け取った彼のメールに次のような文章がありました。「いつも低廉な料金で丁寧なお仕事をしてくださる△△様に、ご不信を抱かせ、またご不快な思いをさせてしまったことを深くお詫びします」

ほほー、ほほほー。「低廉」だということをこの社員、正社員ですね、彼は分かっているんですね。承知してやっているわけです。しかしですね、ここが肝心なんですが、本来「低廉」などであってはならないんですよね。なぜ当たり前のように低廉なのでしょうか? なぜ低廉なままで済ませているのでしょうか? フリーランスの技能すなわち商品ですね、モノを売っているのはこちらのほうで、彼らは買うほうの側にいるわけです。売り手ではなく買い手のほうがモノの値段を決定している商売がありますか? ないですよ? フリーランスの持つ技能、繰り返しますがすなわち商品、モノの値段を当たり前のように高みに立って決定している買い手の側の彼ら企業の正社員というのは、一体全体何様なのでしょうか? 何様のお通りなのでしょうか?「低廉」ではなく「適正」でなければならないんですね、本当は、もちろん常にです。前記のメールに記された文言のように、善人ぶった&常識人ぶった、なおかつ慇懃無礼でありきたりの間抜けなメールをその場しのぎで送信し「ハイ、オシマイ」とするのではなく、報酬額はいつでもシンプルに「適正」にすればいいだけの話なんだよコノ野郎、ということなんですね。このエピソードはご本人が読めば「俺のことを書いているな」とすぐにお分かりになるかと思いますので、文句があったら言ってきてくださいね(笑)その代わり返しがありますから、体調万全の日をお勧めします。

話を戻しますが、今回この文書を通じて業界団体に宛て、10 %の報酬引き上げを要望するという初の試みを実行することに決めたと報じられている「出版ネッツ」にご関心がおありの方は、下の画像クリックでリンクしますので、ご訪問されてみてはいかがでしょうか。私も時間ができた際に閲覧してみようと思っています。

ところで以下は私見になりますけれども、しかし「10 %」というのは非常に低い数値だと思っているんですね。これをもって「一律 10 %」などと設定まがいのことが為されてしまいますと大変厄介です。それを上回る例えば 15 %等の数値が以降、認められ難くなりはしないだろうかと危惧する部分があるものですからね。分かりません、どうでしょう。ちなみに私自身が「適正」だと思えるのは「最低 50 %」の引き上げです。

出版社をはじめとする関連企業の正社員の方々からは「冗談言うなよ」「たかが校正者が何様だと思ってやがる」「そんなカネ出せるわけねえだろ」等々、大きな声が飛んできそうですけれども「いいえ」 もう一度書きますよ「いいえ」― 冗談などではありません。あくまで次の例示は、ざっくりとしたひとつの方法にすぎないものですが、同一労働に従事する正社員全員の収入から平均時給を割り出し、それを「1.0」とする金額の「1.5 倍以上」をフリーランスの報酬額とするのが、百歩譲って私が考える適正料金です。保証も保障もないフリーランスですが、それはなくて結構なんですね。しかしそうであるなら、時給等報酬額のところだけは高く設定しませんと、労働者の収入として「正しい」数字になりません、この社会に在ってです。「高額報酬を手にしているから」という前段があって、そうであるから「あとは自前でやりますよ」という落としどころが初めて出現しうるということを言いたいわけなんですね。「冗談言うなよ」などといった一方的な在り方は、私から言わせれば「あんたら正社員のほうが冗談だろ」ということにもなるわけです。

大して仕事ができなくても各種手当は出る、残業代は出る、賞与まで出る、昇給があり有給休暇に慶弔休暇、労災保険に雇用保険、健康保険も半額で良し、もう何でもありますよという「あるある尽くし」の方々の中には、実際のところ「いやぁ、おかしいなぁ、あの人はもっと給料低くていいんじゃない?」と思えてしまう正社員が珍しくなく存在します。「切っちまえばいいんじゃない?」とすら思えてしまう正社員も普通にゴロゴロ転がっているという現実を前に、どうすりゃ私が黙っていられるんですか?(笑)言われたくはないでしょうけれども、残念ながら本当のことですから仕方がない。非正規雇用の枠にも入らないフリーランスの時給等報酬額は、正規労働者のそれより高額であることが当然となって初めて、この労働社会の在りようも「適正」なものとなるのではないでしょうか。



*****

このブログの人気の投稿

商業印刷物と英語力、報酬の高い校正会社を薦める理由

校正&校閲、キャリア相談は完全無料

好きなことが得意分野になる校閲の仕事

校正&校閲の仕事に興味がある方へ

校閲に必要な三つの能力

仕事と趣味と語学と大学で忙しい

フリーランスという選択

校閲の仕事をしていて「いい気分」になったこと

出版社の正誤表で誤植の実例を見る

実務経験四半世紀でも「できない」ことはいろいろある